2007年11月29日木曜日

藤田まさと:魅惑の世界

 古い奴だとお思いでしょうが、古い奴ほど新しいものを欲しがるもんでございます。どこに新しいものがございましょう――着流しの鶴田浩二(1924年―1987年)が登場する。マイクに純白のハンカチを沿え、左耳に手を当て唄う「傷だらけの人生」の冒頭の台詞。1970年(昭和45)のヒット曲で、作曲は吉田正、作詞は藤田まさとである。
 
 「古い奴」草野球音は、藤田まさとの作詞が子供のころから心に残っている。股旅歌謡は特に心惹かれる。前世は渡世人か博徒で、任侠の世界に生きたのではないか、とすら思うことがある。根はやくざな性格でまっとうな人間ではないのだ。

 藤田まさとの作詞の魅力は巧みなリフレーンではないか。
明治一代女(昭和10年)=大村能章作曲から
  ♪浮いた浮いたの 浜町河岸に
  浮かれ柳の はずかしさ

流転(昭和12年)=安部武雄作曲から
  ♪浮世かるたの 
  浮世かるたの
  浮き沈み

妻恋道中(昭和12年)=安部武雄作曲から
  ♪好いた女房に 三行半(みくだりはん)を
  投げて長どす 永の旅

麦と兵隊(昭和13年)=大村能章作曲から
  ♪徐州徐州と 人馬は進む
  徐州居よいか 住みよいか

大利根月夜(昭和14年)=長津義司作曲から
  ♪利根の流れの ながれ月
  昔笑うて ながめた月も 

岸壁の母(昭和29年)=平川浪竜作曲から
  ♪母は来ました 今日も来た
  この岸壁に 今日も来た

 七五調の言葉の配置とリフレーンそして韻が、日本人の心の琴線に触れる。魅惑の「詞の世界」へ引き込む。人生を唄う。
 上記のほかにも巷に溢れ、人の心に残る詞は、股旅歌謡の「旅笠道中」(昭和10年=大村能章作曲)、藤田の死後にヒットした「浪花節だよ人生は」(昭和51年=四方章人作曲)と数多(あまた)ある。人を魅せる詞を創造する天賦の才の持ち主である。

藤田まさとの略歴:1908年(明治41)―1982年(昭和57)。静岡県榛原郡川崎町(現牧之原市)生まれ。小学校3年終了後に単身で満州に渡る。大連商業時代に全国中等学校野球大会に出場した経験がある。明治大学中退。享年74歳。

追伸:
 なんだかんだと蜘蛛巣丸太で御託を並べて参りましたが、かくいう球音も日陰育ちのひねくれ者、お天道様に背中を向けて歩く‥‥馬鹿な男でございますが、伏してご愛読をお願い申し上げます。

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