2008年2月9日土曜日

アラカン天狗に拍手喝采

シリーズ映画Ⅱ
 多分、小学校にあがる前だろう。記憶を努めて辿っても、何時のことやらぼんやりしていて、はっきりしない。だが、その場面だけは鮮明なのだ。

――白馬に跨った鞍馬天狗が杉作の救出に向かっている。海岸線の砂浜を疾走する。悪を懲らしめるために急ぐ。馬に鞭(むち)を入れ急ぐ。モノクロスクリーンに黒衣の男と白い馬のコントラスト。期せずして沸き起こる拍手喝采。

 草野球音が初めて映画館で映画を観た記憶である。

 映画終盤のクライマックス。
 鞍馬天狗参上!
 「杉作、無事か」
 「天狗のおじさん」
 宗十郎頭巾に紋付の着流しの鞍馬天狗は杉作を救出し、悪い奴らをバッタバッタと斬りまくる。かくして勧善懲悪劇の幕は下りるのであった。

 「鞍馬天狗」役はご存知アラカンこと嵐寛寿郎(1908年―1980年)である。戦前からの剣戟映画のスターで、1925年、牧野省三(1878年―1929年)のマキノ・プロダクション入り、嵐長三郎の芸名で「鞍馬天狗異聞・角兵衛獅子」で映画デビューした。1927年に独立して、嵐寛寿郎を名乗る。
 「鞍馬天狗」は 大佛次郎原作の幕末を舞台にした大衆小説の名で、主人公・倉田典膳の通称。アラカンはあたり役として「鞍馬天狗」を生涯に40作(42本という説もあり)撮っている。もう一つの「むっつり右門」36作に主演している。

 「鞍馬天狗」は映画・テレビでもお馴染みのヒーローで、小堀明男、東千代之介(1926年―2000年)市川雷蔵(1931年―1969年)、高橋英樹、竹脇無我などが演じているが、他の人には悪いが、アラカンが一番だと思う。宗十郎頭巾が似合う面長な顔、殺陣、そして風格は抜けている。

 嵐寛寿郎は晩年、「網走番外地」で「八人殺しの鬼寅」という老やくざを演じ、渋さと貫禄で作品に重みを加えた。

 高倉健主演の「網走番外地」もシリーズ映画として欠かせない。石井輝男(1924年―2005年)とのコンビで1965年(昭和40)から1967年までの3年間で10作、他監督で8作と計18作も主演している。石井輝男メガホンの「網走―」は東映のドル箱作品となった。

 石井輝男監督の「網走番外地」シリーズ10作品
・網走番外地
・続網走番外地
・網走番外地 望郷編
・網走番外地 北海編
・網走番外地 荒野の対決
・網走番外地 南国の対決
・網走番外地 大雪原の対決
・網走番外地 決斗零下30度
・網走番外地 悪への挑戦
・網走番外地 吹雪の斗争

 石井監督は新東宝時代に、和製スーパーマンというべき子供向き映画「スーパージャイアンツ」(宇津井健主演)シリーズを6作品撮っている。また東映時代は「網走―」ほか、アダルト向け「徳川女系図」「徳川女刑罰史」などのエログロ作品も量産した。観客動員力のある、幅の広い作風の稀有な監督といえる。

 石井輝男の墓は、網走にあり、墓碑には「安らかに石井輝男」と高倉健による碑文が刻まれているそうだ。高倉健がドスの聞いた声で歌う主題歌「網走番外地」(タカオ・カンベ作詞・作曲者不詳)のように、墓から「紅い真っ赤なハマナス」がオホーツクを見て咲いているのだろうか。

 シリーズ映画の大御所はフーテンの寅さん、「男はつらいよ」である。渥美清(1928年―1996年)が1969年(昭和44)から1995年(平成7)にかけて48作品に主演している。全作品の原作・脚本を担当した山田洋次が46作品の監督を務めている。  
 「男はつらいよ」(山田洋次・森崎東脚本)はもともとテレビドラマだった。1968年フジテレビで半年間(26回)放送され、人気となった。実際観ていたが、馬鹿に面白かった。最終回で寅さんがハブに噛まれ死んでしまうことになったが、残念に思い続編を望む声が多いため、山田洋次がファンの気持ちに報いようと松竹を説得し映画化に漕ぎつけた。これが予想外の大ヒット映画となり、続編に次ぐ続編で48作も撮る国民的映画となった。

 寅さんが毎回登場するマドンナ(有名女優)に惚れてしまう。マドンナも好意は抱くが、それは愛情ではない。恋人が現れるかして、寅さんの失恋に終わる、という毎回お決まりのストリーだが、毎回笑ってしまう。観ながらリラックスできる。渥美の演技力の成せる技だが、ここまで来ると名人・達者が演じる古典落語の域だったなぁ。リリーの浅丘ルリ子、寅の母親のミヤコ蝶々(1920年―2000年)、旅の一座の座長の吉田義夫(1911年―1986年)など印象に残るキャスティングだった。
 主題歌「男はつらいよ」は星野哲郎作詞・山本直純作曲で渥美清が歌った。

※蜘蛛巣丸太「草野球音備忘録」では人物名の敬称を省略しています。文章中で「主」の記憶違い・事実誤認・赤字などがありましたら、ご指摘くだされば幸いです。また赤字などの訂正、文章表現などの加筆は随時行っています。

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