2009年1月24日土曜日

筆名と本名のギャップ

江戸川乱歩

 江戸川乱歩(1894年―1965年)の少年探偵シリーズ「少年探偵団」(ポプラ文庫)を読む。痛快、スーパー探偵・明智小五郎と、「怪人二十面相」の巻末で結成された「少年探偵団」が活躍する。

 さて、読後感想などでなく、違う話の展開をしたい。
 作家の江戸川乱歩(えどがわ・らんぽ)は筆名で、アメリカの小説家、エドガー・アラン・ポーEdgar Allan Poe(1809年―1849年)からとったことは、よく知られている。本名は平井太郎という。平井太郎作というより、江戸川乱歩作の方が、作品がミステリアスに響くよね。

 筆名には、個々にそれなりの“こだわり”があるようだ。

 曲亭馬琴(きょくてい・ばきん=1767年―1848年、滝沢馬琴の表記は明治以降に使われる)は、本名は滝沢興邦(たきざわ・おきくに)で、筆名は「くるわでまこと」とも読める。これは、本来遊びのはずの廓(くるわ)で誠を尽くしてしまう野暮な男という意味からの命名である。

 二葉亭四迷(ふたばてい・しめい=1864年―1909年)は、本名・長谷川辰之助で、江戸詰めの尾張藩士であった父親から「くたばってしめぇ」言われたことが、筆名となったそうだ。明治期、文学を志す息子をサムライの父には“非国民”のように思えたのだろうか。
 曲亭馬琴にしろ、二葉亭四迷にしろ、自虐的な命名といえる。

 「鞍馬天狗」シリーズを著した 大佛次郎(おさらぎ・じろう=1897年―1973年)の本名は野尻清彦で、鎌倉の大仏の裏に住んでいた縁でつけた筆名だ。
 山本周五郎(やまもと・しゅうごろう=1903年―1967年)は本名・清水三十六(さとむ)で、奉公先の質屋の、世話になった主人の名前が山本周五郎だ。
 
 中高年読者の多い“一平ニ太郎”どうだろうか。本名で書いているのが、池波正太郎(いけなみ・しょうたろう=1923年―1990年)ひとりで、残る御二方は筆名である。
 司馬遼太郎(しば・りょうたろう=1923年ー1996年)は、本名は福田定一という。中国の歴史家、司馬遷からとったもので、司馬遷には「遼(はる)か」及ばないという謙遜からの命名だ。
 藤沢周平(ふじさわ・しゅうへい=1927年―1997年)の本名は小菅留治である。無名時代に早世した妻の故郷が、山形の鶴岡郊外の藤沢という地名であった。藤沢周平の故郷は鶴岡である。甥の名前から「周」、なんとなく「平」の字をつけたという。失礼ながら、「小菅留治」の名前では、藤沢作品の魅力が半減するのではないか。

 ざっと浅学で書いたが、このテーマ、「ペンネームの由来」は探ればかなり興味深いと思う。

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