2010年6月22日火曜日

藤沢周平「決闘の辻」

不敗神話の危機に武蔵の一計とは
 藤沢周平の「決闘の辻 藤沢版新剣客伝」(講談社文庫)を読む。死を賭して決闘に臨む歴史に残る剣豪たちを藤沢流の視点で描く。

・二天の窟(宮本武蔵)
・死闘(神子上典膳)
・夜明けの月影(柳生但馬守宗矩)
・師弟剣(諸岡一羽斎と弟子たち)
・飛ぶ猿(愛洲移香斎)
以上の5編を収録している。

×  ×  ×

「二天の窟」は、人間臭い宮本武蔵が登場する。武蔵といえば生涯不敗の剣聖、ストイックな剣豪というのが一般的なイメージだが、ちょいと違う。
 五輪書を著わす直前。老境の武蔵は肥後細川家で客分として遇されていた。鉢谷助九郎という不遜な若者が勝負を挑んできた。立ち会った武蔵は勝てないと感じ、引き分けの形でその場をつくろった。その後、武蔵に勝ったと喧伝する鉢谷助九郎の風評が武蔵に届く。このままでは不敗神話が崩れる。老いた剣豪には耐えられない。そこで一計をめぐらす……。

「師弟剣」は剣の師と弟子をめぐる物語だ。独自の剣法で流派を創始した諸岡一羽斎が癩病(らいびょう)に侵される。不治の病である。彼には三人の高弟―根岸兎角、岩閒小熊と土子泥之助がいた。身きりをつけた兎角が師のもとをさる。一羽斎の身の周りの世話をしていた女おまんもいなくなっていた。やがて兎角が別の流派を名乗り、江戸で評判となっているという風評が伝わる。師の死後、師の名誉を守るため兎角を討つことを小熊と泥之助は誓う……。

 池波正太郎の「剣法一羽流」(文春文庫)では諸岡一羽斎と弟子を扱っており、兎角が秘伝書を持ち逃げする設定で書かれている。時代小説好きなら比較して読むのも一興だと思う。

「死闘」は伊藤一刀斎の後継をめぐる神子上典膳と善鬼が争う。「夜明けの月影」は柳生但馬守宗矩の政治感覚の鋭さを、「飛ぶ猿」は父の敵、愛洲移香斎を探す旅に出た住吉波四郎を描いている。

2010年6月21日読了新装版 決闘の辻 藤沢版新剣客伝 (講談社文庫)

0 件のコメント: